呉江浩大使、「財界」誌のインタビューに答える
2024/03/04

  呉江浩駐日大使はこのほど、日本の有名な金融専門誌『財界』のインタビューを受け、中国の経済情勢とその明るい見通しについて重点的に説明するとともに、中日関係や関連問題についての立場を明らかにした。インタビューの内容は以下の通り。

 一、駐日大使就任から約10カ月が経ったご感想。また、自らの使命とはどのようなことだとお考えか。

 日本勤務は今回が3度目で。前回は2002年から2008年までだった。十数年ぶりに日本に戻って、1年がたとうとし、中国も日本も大きな変化を遂げていることをしみじみ感じるが、より大きな変化は、私たちのいる世界がものすごい激動の中にあることだ。中日間の利益はより緊密に結びつき、重要な発展のチャンスを迎えると同時に、国際情勢、特に外的要因によって著しく妨害され、新旧のさまざまな問題が絡み合い、顕在化している。これは過去に経験したことのない新しい局面であり、双方が中日関係の政策を立てる上で、新たな困難と試練をもたらしている。

 昨年3月に赴任した際、空港でメディアの皆さんから同じような質問をされたことを覚えている。今回の駐日大使としての使命は何ですか?私の答えは、両国関係の維持と発展に努めるというものだった。この1年間、私は常にそのような初心を持って、日本の各界の人々と幅広く接触し、中日の各分野における交流と協力の促進に努め、また健全で安定した中日関係の維持が両国民の共通の声であるとの確信を深めてきた。昨年11月、両国首脳はサンフランシスコで会談し、中日の戦略的互恵関係の全面的推進を再確認し、両国関係の前進の方向をはっきり示した。われわれは、日本側と協力して、両首脳の重要な共通認識〈コンセンサス〉を指針に、中日関係を正しい軌道に沿って持続的に改善、発展させ、新しい時代にふさわしい建設的安定的な中日関係を共同で築きたいと希望している。


 二、世界は不動産問題を含む中国経済に対するさまざまな見方を抱いており、バブル崩壊を経験したことになぞらえて“第2の日本”になる可能性があるとも言われていますが、足元の中国経済はどのような状況になっているとご分析されているか。

 中国は超巨大経済体〈メガエコノミー〉であり、中国経済を見るには、より深い視野で、俯瞰(ふかん)的に観察することでのみ、客観性と全面性をもたせ、現状はどうか、今後どうなるかを真に理解することができる。過ぎたばかりの2023年は、複雑な外部環境と国内の経済のタイプ転換圧力の中で、中国経済は外圧に耐え、内部の困難を克服し、全体的に反転し上向いて、国内総生産(GDP)は5.2%伸び、年初に設定した目標の5%を上回っており、依然として世界経済の成長に対する貢献が最も高い国で、寄与度は近年30%前後を維持している。習近平主席が述べているように、前進途上に風雨はつきものだ。われわれは経済において困難や内外の挑戦になお直面しているが、中国が発展するための有利な条件は不利な要因よりも強く、経済が反転して上向き、長期的に上向くという基本的な傾向は変わっていない。

 2024年の中国経済はどうなるか。経済の反転・上向きをどう一段と後押しするか。中央経済工作会議は「安定の中で前進を求め、前進によって安定を促し、まず打ち立て後で打ち破る〈先に新しいものを作ってから古いものをやめる」という全般的基調を定めた。安定は大局と基礎であり、予想の安定、成長の安定、雇用の安定に役立つ政策を少しでも多くしなければならない。前進は方向と原動力であり、方式の転換、構造の調整、品質の向上、効果の増大において積極的に進取をはかってこそ、安定の中での上向きの基礎をたえず固めることができる。まず打ち立て後で打ち破るは安定と前進を統一的に計画し合わせて配慮したもので、カギは新旧モデルや新旧エネルギーのつながりと切り替えをうまく行うことである。古いエネルギーの退出は新しいエネルギーが成長し大きくなった後でなければならず、現実から遊離し、功(こう)を急いではならない。われわれは、中国の今後の経済見通しに十分な自信をもっている。

 私は日本国内で、中国がかつての日本の「バブル経済」の轍(てつ)を踏むのではないかと心配する見方があることに留意している。中国国内でも似たような議論があり、わりと広がっているのが「バランスシート衰退論」だ。日本の「バブル経済」が崩壊し、不動産などの資産価格が暴落した結果、企業や家計のバランスシートが急速に悪化し、多額の資金が債務返済に充てられ、需要の伸びが阻害された。バランスシートの修復後は、少子高齢化、産業の海外移転、投資不足、労働生産性の低下といった供給側〈サプライサイド〉の要因により、長期的な低成長に陥ったとするものだ。

 中国は日本とは状況が異なる。当時、日本のデレバレッジ〈過剰債務の削減〉は受動的かつ急激に行われたが、われわれは何年も前から能動的にデレバレッジ措置を講じ、不動産とそれに密接に関連する地方の債務や中小金融機関のリスクを防止・解消し、システミックリスクが発生しない最低ラインを断固として守りぬいた。昨年末に開催された中央経済工作会議では、不動産リスクを積極的かつ着実に解決し、所有制の異なる不動産企業の合理的な資金需要に同じように応え、保障性住宅〈福祉型住宅〉の建設、「平急両用〈平時と緊急時で用途を使い分ける〉」公共インフラの建設、「都市の中の村」の改造など「三大プロジェクト」を加速させ、不動産開発の新しいモデルを構築することが強調された。これらの措置は不動産企業の自信と個人の住宅消費予想の安定、不動産市場のソフトランディング〈軟着陸〉の実現に役立っている。

 マクロ経済の視点から見ると、中国には一層豊富な政策手段、巨大な人口規模、活発な国内大市場、整った産業体系、急成長する科学技術革新力などファンダメンタルズの強みがあり、これが中国経済により大きな余地とリスク抵抗力を与えている。中国の中間所得層は4億人を超えており、今後十数年で8億人に達するとみられ、消費高度化のエネルギーは依然として強い。中国の都市化率は先進国の平均より10数ポイント低く、巨大な需要の余地がある。中国ではグリーン・インフラ、グリーン・エネルギー、グリーン・トランスポート、グリーン・ライフなど各分野で膨大な新規開発が形成されている。中国社会全体の研究開発投資とハイテク産業投資は、長年連続して2桁の伸びを維持しており、新興技術の応用が加速し、新製品と新業態が絶えず生まれている。ハイテク企業の数は約40万社に増加し、ユニコーン企業の数は世界第2位だ。これらはすべて中国経済の自信である。われわれは質の高い発展という第一の任務を堅持し、経済の効果的な質的向上と合理的な量的成長を引き続き後押しし、中国式近代化という壮大な青写真をよりよい現実へと一歩一歩変えていく。

 三、自動車の輸出で日本を抜いて世界第1位となる中、中国の経済成長の点で注目している点とは。

 私は日本の友人たちに、「新しい生産力」というキーワードに注目することを提案したい。習近平主席は、新しい生産力の発展を急ぎ、質の高い発展を着実に進めるよう強調した。一言でいえば、新しい生産力とは、イノベーションが主導的な役割を果たし、従来の経済成長方式や生産力の発展経路から脱却し、ハイテク、高性能、高品質の特徴を持ち、新しい開発理念にかなった先進的生産力形態である。

 新しい生産力の発展では、科学技術革新〈イノベーション〉が核心的要素となる。中国は「導入——消化——吸収——再革新〈改良〉」という後発追跡モデルから革新先導駆動型発展の新モデルに転じつつある。われわれは科学技術の革新によって産業の革新を後押しし、特に破壊的技術と先端技術によって新産業、新モデル、新エネルギーを生み出し、伝統産業を一段と改造し向上させ、新興産業を育成・強大化し、未来産業を配置・建設し、近代的産業体系を完備させていく。

 あなたは2023年に中国が日本を抜いて、自動車輸出で世界第1位になったと言われた。自動車輸出522万台のうち、新エネルギー自動車(NEV)は177万台(前年比67%増)だ。一方中国の国内市場では、2023年のNEVの生産・販売はそれぞれ959万台(同35・8%増)と950万台(同37・9%増)で、市場占有率は31・6%に達している。予測によると、2030年には中国のNEVの世界シェアは3分の1に達する。中国のNEVは燃料電池分野で自前のコア技術を握るだけでなく、自動運転、カー・マシンシステム、インテリジェントコックピットなどの面でも「科学技術感」が十分だ。NEVとリチウム電池、太陽光発電(PV)製品は中国輸出の「新三様」と呼ばれており、これは中国経済の質向上・高度化の生き生きとした描写である。

 中央経済工作会議では、新型工業化を強力に進め、デジタル経済を発展させ、人工知能(AI)の開発を加速し、バイオ製造、商業宇宙開発、低空経済(Low-altitude economy)など若干の戦略的新興産業を築き、量子、生命科学などの未来産業の新サーキットを開くと強調された。これらの新興産業と未来産業には高い成長性と強い能力付与〈エンパワーメント〉性があり、いくつかの1兆元級の新しい支柱産業と産業クラスターが育て、築かれるだろう。

 新しい生産力はそれ自体グリーン生産力である。中国は過去10年間、年平均3%のエネルギー消費の伸び率で平均6・6%の経済成長を支えており、世界でエネルギー消費強度引き下げが最も速い国の一つで、合計58億トンの二酸化炭素排出を削減した。われわれは発展パターンのグリーン転換を急ぎ、グリーン製造業を強くし、グリーンサービス業を発展させ、グリーン・エネルギー産業を大きくし、グリーン低炭素の産業・サプライチェーンを発展させ、グリーン低炭素の循環型経済システムを築き、カーボンニュートラルの目標を積極的かつ穏やかに実現する。

 科学技術革新によって新しい生産力の発展をリードするわれわれの最大の自信は超大規模の国内市場から生まれており、これは新しい技術のふ化・成熟、製品の中間試験、アーリー市場に全チェーンの強力なサポートを提供している。一方、多様化した応用シナリオ、差別化されたセグメント市場はより多くの技術ルートと発展モデルを生み出すのに役立ち、「大きな川で大きな魚を育てる」強みを十分に生かすことができる。中日双方が科学技術革新協力を強化し、新しい生産力を共同で育て、両国それぞれの経済発展のための新しいエネルギーを注ぐよう希望している。

 四、米中対立が続く中、日本や世界の企業の脱・中国の動きが加速しているという見方があります。大使はどう見ているか。

 まず、一つの事実についてはっきりさせたい。外資企業の中国離れが加速しているかどうかという点だ。新型コロナの流行、地政学。保護貿易主義など幾重もの要因の影響を受けて、世界の国際投資は普遍的な落ち込み傾向がみられる。にもかかわらず、中国商務省の集計によると、2023年に全国で新たに設立された外資系企業は5万3766社で、前年より39・7%増えた。外資利用実績は1兆1339億1000万元で、前年より8%減少したが、外資導入規模は2021年、2022年に次いで、過去3番目の高さにある。同時に中国の外資導入構造は改善され続けており、ハイテク産業の外資導入の割合は37・4%に達している。データによると、昨年中国の新設日系企業は前年比7・3%増の888社で、日本は中国第3の外資供給国だった。この5年間外資企業の対中直接投資の収益率は約9%だったが、日本企業の2022年のこの数字は18%に達しており、中国事業の状況は総じて良好だ。中国日本商会〈商工会議所〉が会員企業1700社を対象に行ったアンケート調査によると、88%の日本企業がなお中国を重要な市場とみなし、中国市場の見通しを明るいとしている。外資企業が大量に中国から逃げていると日本の一部メディアが騒ぎ宣伝しているのは全くのでたらめである。

 では外資の中国離れはあるのか。中国は市場経済で、外資企業が市場法則によって業務配置を見直したり、市場競争メカニズムの作用で中国を離れたりするならば、それは完全に正常な現象だ。われわれは少数の国が経済問題を政治化、手段化することに警戒し、反対しなければならない。「デリスキング」の名で「脱中国化」の実を行い、企業の中国撤退を誘導または強迫し、中国との経済・貿易のつながりを絶ち、グローバルな産業・サプライチェーンの安定を損なうのは、リスクを作り出し、リスクを拡散することにほかならず、損なわれるのは全世界の共通の利益である。

 中国の発展には世界が欠かせず、世界の発展にも中国が必要である。中国は高いレベルの対外開放を持続的に進め、中国式近代化によって世界により大きなチャンスを与える。先ごろ、李強総理は日本経済界訪中団と会見した際、こう述べた。中国は最大の誠意、最大の努力によって、日本企業の中国事業のために公平、安全で、安定した環境を提供する。われわれはつねに大手を広げて、日本企業が中国に投資し、未来に投資するのを真心から歓迎している。

 五、日中国交正常化から五十余年を経て、今後の日中間の経済交流・対話はどのような方向性に向かうべきだとお考えか。

 中日経済貿易協力の歴史の話になると、私は松下幸之助先生のことを思い出す。1978年、鄧小平氏が日本を訪問した際、松下電器を参観し、松下会長は日本財界の力を挙げて、中国の近代化に貢献する決意を表明した。しかし当時の中国は門戸を開いたばかりで、多くの日本企業が中国経済の将来に自信がなく、中国に行って投資することについてあれこれ心配していた。松下会長は自ら決断して、最初に「カニを食べる人」〈リスクを冒して人よりも先に果実を得る人〉になり、最初の中日合弁企業を創設し、1980年代の日本企業の中国投資ブームをけん引した。今日、松下〈現パナソニック〉グループの中国社員は5万名余りに上り、年間売上高は1100億人民元で、全世界での売り上げの3割近くを占めている。松下は中国の改革開放の歩みの参画者、貢献者および受益者になった。

 国交正常化から半世紀たった今日、中日の経済協力・貿易は質量共に飛躍的発展をとげ、2国間貿易額は長年連続して3500億ドルを超え、日本企業の累計中国投資は1300億ドルを超えて、大きな強靱(きょうじん)性と潜在力を示している。同時に、外部環境の変化と政治的要因に妨げられて、中日の貿易額と投資の伸び率は共に落ち込みを見せており、双方がこれを大いに重視し、早めに転換を図る必要がある。今後の中日の経済分野の対話と協力に関して、三つのことを提案したい。

 まず位置づけの明確化。中国は現在発展をとげ、経済総量が日本を超えており、双方はいくつかの具体的分野で直接競争する場面もあるが、中国は果たして日本のライバルになったのだろうか。両国首脳のサンフランシスコ会談の最も重要な成果は、中日の戦略的互恵関係の全面的推進という位置づけを再確認したことである。その経済分野での現れは、双方が互いに協力のパートナーとなるという位置づけを堅持し、協力・ウィンウィンの旗印を高く掲げ、競争と協力の関係を正しく処理することにほかならない。決して勝った負けたという競争の論理で中日の経済・貿易関係を主導し定義してはならず、より幅広い協力の中で相互に促進し、互いを成功させるべきである。

 第二は潜在力の掘り起こし。われわれは現在、中日の経済協力・貿易はすでに「頭打ち」で、広げられる余地は大きくないとする悲観論をよく耳にしている。こうした見方に、私は全く賛成できない。中日両国の経済的利益は深く融合し、産業チェーン・サプライチェーンは密接につながり、近年は省エネ・環境保護、グリーン低炭素、医療健康など多くの分野で非常に成熟した協力が展開されており、科学技術革新、第三国市場協力などの協力の潜在力は巨大だ。われわれは経済以外の要因の妨害に警戒するとともにこれを排除し、人為的に障害やタブーを設けることを避けるべきであり、さもなければ双方の共通利益を損なうだけでなく、最終的に自分の手足を縛ることになる。

 第三は多国間主義を共同で守ること。中日両国が今日の経済発展をとげたのは、ほかでもなく経済のグローバル化と自由貿易体制のおかげである。過去数年、少数の国が一国主義、保護主義を盛んに進めている。貿易戦争、科学技術戦争であれ、「デカップリング・チェーン切断」、「デリスキング」であれ、経済グローバル化が重大な挫折に遭い、世界経済が陣営化と断片化に陥る結果を招いており、不道徳でもあれば長続きもしない。主要な経済体である中日両国には真の多国間主義を守り、インクルーシブで包摂的な経済グローバル化を共同で提唱する責任と義務があり、世界を閉鎖と孤立さらには分裂と対抗の状態に引き戻すことは決して許されない。

 最後に、私は日本経済界の友人が往年の松下会長のように、中国の今後の発展を客観的正確に見通し、中日の経済協力・貿易についてぶれることなく、自信を強め、投入を増やすよう心から期待し、皆さんが中国市場でより大きな成功を収めるよう祈りまたそう信じている。